「道の駅崎津」の朝が来た。
シンプルに崎津集落のガイダンスセンターとトイレしかない道の駅のせいかトナラーも大型も来ない静かな夜だった。
朝から濃い霧が立ち込めていて雲海のようになっていた。
奥さん曰く、「もう一泊したい」くらいの良いところだった。
今朝もシラストッピングのお茶漬けだった。ミカンは贅沢にタンカン&デコポンを頂いた。
広い駐車場の奥にはこれまた広い原っぱがあり、毎朝普通にやっていることなのか、リードを離された犬が二頭ほど走ってきた。飼い主はまさか遠くに停まっているハイエースにも犬が二頭いるとはこれっぽっちも思わず愛犬を離して遠くから暢気に歩いてくるが、犬は馴染みのないエルブレの匂いを嗅ぎつけて走ってくる。ケンカになりそうになって騒ぐ我々の声を遠くから聞いて初めてビックリして駆けつけてくる飼い主。幸い攻撃性のある子じゃなくて嬉しそうに寄ってきたから大事に至らず良かったものの、田舎ならでは暢気な出来事か。
ここ天草はいつか来てみたいと憧れていた地なので、3日くらいかけてのんびりまわりたいと思っていた。だがよりによって犬連れ車中泊erにとって一番の大敵が迫っているのだ。雨である。今日は晴れるようだが、明日と明後日は傘マークがばっちりと予報に出ているのだ。しかも明日は夕方から雨のようだが、明後日は朝から夕方くらいまで土砂降り予報と来たもんだ。雨が降るとエルブレと観光どころじゃなく、トイレに連れ出すのも一苦労だ。
後ろ髪をひかれつつも今日で天草を切り上げ、貴重な晴れの中で日本百名道のひとつの憧れの「天草パールライン」を走ってしまおうという苦渋の決断に至った。
よって今日は熊本市内くらいまで行くという割と長距離を走ることになりそうなので、居心地の良い崎津をいつもより早めに出発した。
崎津から10分弱のところにある「大江天主堂」が本日最初の訪問地だ。グーグルマップでは天主堂となっていたが正しくは大江教会なのだろうか。なんとなく天主堂という響きの方が、長崎天草感がアップする気がしてテンションも上がる。ちなみにこちらは昭和8年築と天草では最も古いとのこと。
他の観光客は教会のすぐ脇の駐車場まで急坂をギュンギュン上って行っていたが、我が家はエルブレの散歩も兼ねて天草ロザリオ館に停めてテクテクと徒歩で上った。
雲一つない青空の下で白い教会が映える。畳敷きの崎津と違い中は椅子が置いてあるスタンダードな造りだった。そしてここでもまたエルブレは長崎から来られたというご夫婦から声をかけられた。犬に対して優しいのは、九州人が犬とともに立つ西郷さんの銅像に昔から親しんでいるのも関係があるのだろうか。
再び国道389号を東へ進み、さらに266号を北へ向かった。
途中、「道の駅宮地岳かかしの里」に立ち寄ってみた。ここは廃校になった小学校をリニューアルして2021年にオープンした駅で、無数のかかしがお出迎えしてくれる。先を急ぐのでとりあえず写真だけパチリと撮って286号をさらに北上した。
天草瀬戸大橋を渡って天草上島に入りしばらくしたところでエネオスに寄った。単価がどこにも表示されていないので「おいくら?」と聞くと高かったので10リッターだけ入れて次に賭けることにした。指宿での失敗は二度と繰り返さない。
324号をさらに進み前島に入ったところでランチ休憩を取りにオシャレな複合施設「リゾラテラス天草」に入った。ここまではのんびりとした風光明媚な道を走ってきたが、この辺りに来るとリゾートホテルの看板がチラチラ見えて来て一気にオシャレな雰囲気だ。
全席オーシャンビューがウリの「プレートカフェリゾラ」の4つほどあるペット可のテラス席でリッチにランチタイムとしゃれこんだ。
天草の食材を使った料理は美味かったが、外席は日陰でけっこう寒く料理があっという間に冷めた。
ここでも声をかけられたエルブレであった。オシャレな施設に来れて機嫌が良いのか、エルは他所の人と挨拶出来た。
ランチを終えて、さぁいよいよ憧れのパールラインだ!と思いきや、この店に来る直前に既に5号橋(松島橋)を渡ってスタートしていたらしい。1号橋から5号橋までがパールラインと呼ばれているそうな。一旦上島方面に戻って仕切り直しすることにしたが、その前に松島展望台に行ってみた。
さぞ「針尾公園」のような絶景が見られるのだろうと期待して上ったが、すぐ前の木が生い茂りすぎていてかなり期待外れな眺望だった。
気を取り直して5号橋から憧れのパールラインをスタートした。
永浦島に展望台があるようなので行ってみたが、大した絶景ではなかった。ちなみに上の写真を撮っている時に足元をシュルシュルとおそらくヘビが通ったので、慌ててコンパスに戻った。
結局1号橋まではあっという間で、憧れていた天草パールラインはこれまで期待していたほどの感動は無かった。もうちょっと長くパノラマがあるのかと思っていた。これまでさんざん絶景を見てきたので麻痺してきたのかもしれない。
天草を出て57号線を宇土市方面へ走っていると左側の海がやたらと遠浅であることに気づいた。潮が引いた部分は果てしなく続く泥だ。ひょっとしてこれがムツゴロウで有名な有明海ってやつかと思いきや、その通りだった。
さらにしばらく走り、左手に見えてきた「道の駅宇土マリーナ」で休憩を取った。
広大な芝生広場の先にはこれまた広い桟橋がある、開放感満点な道の駅だ。今日は休憩のみだが機会があれば停泊してみたい。
この日はいずれ行くであろう島原の雲仙普賢岳が有明海の先にハッキリと見ることが出来た。
湾内に向かっては釣りは禁止されているが、湾外はOKのようだった。
さて今朝の段階では今日はこの先の「道の駅うき」を停泊地としようと思っていたが、この時点でまだ16時くらいで時間があった。そこで急遽予定を変更して頑張って阿蘇まで行ってみようとなった。
宇土マリーナを後にし、宇土市、益城町、大津町とひたすら東を目指す。途中、JAのスタンドで169円と出ていたのでとりあえず20リッター追加し、まだ陽が落ちる前に南阿蘇の「道の駅あそ望の郷くぎの」に何とか辿り着けた。
阿蘇の大パノラマが望める展望台の先には広大な芝生広場があり、さらにその隣にはこれまた広大なドッグランがあるという素晴らしい駅だ。
早くひとっぱしりしたいエルブレに引っ張られながらランに向かった。
中大型ゾーンには先客が居たので小型犬ゾーンに入ったが、ここまで広い小型犬ゾーンは今まで見たことが無い。今日は無理させて長距離移動となったがそんな疲れもなんのその、嬉しそうに走り回っていたエルブレだった。
すぐ近くに停まっていた山形ナンバーの青年がエルブレを「触ってもいいですか」と声をかけてきた。うちより遠くから来ているヤツみっけと「山形からですか?」と聞くと、実家はそうだが長野在住の大学生でこの春から新社会人とのことだ。就職を前に彼女とクルマ旅に出かけ、彼女は一足先に帰り今はひとりで九州をまわっていて最後は志布志から大阪行きのフェリーで戻るらしい。就職前にこんな楽しい遊びを見つけた彼が羨ましかった。私が彼の年にはクルマも持っていなかったし、金も無かった。「じゃあ4月から大変だね。頑張って30年は働かないとイカンよ」と先輩風を吹かせたら、ただ彼は苦笑いするだけだった。もうこれからはひとつの会社で勤め上げるなんて時代じゃないんだろうな。イヤになったら辞めてまた旅にでも出な。大丈夫、何とかなるさ。
今日はランチがリッチだったし買い出しもしなかったので、夜は粗末にコンパスに積んであったカップヌードルで済ませた。たまにはこんなの日もあっていいだろう。
明日からの雨に怯えながら雄大な阿蘇の麓での粗末な夜は静かに更けていったのだった。
本日の走行距離:173㎞